
4−6.救出成功事例
「岩手県釜石市の海岸に座礁したマッコウクジラ」
■発見状況
・1996年1月29日午後12時前,唐丹漁協から電話で東京大学海洋研究所大槌臨
海研究センターに,「唐丹湾小白浜港の防波堤に5〜10mくらいのクジラが 生きて上がっている」との連絡が入る。漁協はまず,県水産課に連絡したが,「近くの同センターに鯨類の研究者がいるのでそこに連絡して,指示を仰げ」と言われた。
・クジラは防波堤のところから南側の砂浜の方まで泳いでいき,その後,砂浜 と港の中間にある岩場にのしあげている。
・クジラはマッコウクジラのコドモで,体長は5〜6m。
・かなり元気で時折暴れる。呼吸もしっかりしている。暴れてはしばらく静か になるのを繰り返しているが。人が近くによると非常に暴れて体を回転させ
ることもある。このとき生殖孔あたりから出血するのが見えたが,大きな外傷は見えず,正確な出血部位は不明。
■現場での判断
・同センターのスタッフが,釜石市水産課,唐丹漁協組合長と会う。まだ比較
的元気なこと,呼吸孔周辺,各ひれの縁など体の突出部はこすれて傷がつい ているが,その他は大きな外傷もなく,状態がよいことから,可能であれば救出するようにとの意見を言う。
・体長から見て1歳未満なので沖で放しても自力では生きていけない可能性が 高いが,周囲の状況,対外的なインパクト,救助しようという漁業者がいる
こと,さらに,このままではいずれ死ぬし,死んだ場合また処理がやっかいであることから,最終的に組合長が救出するのが最善であろうと判断する。
・救助に係わった漁業者は最初から早く逃がしてやろうと積極的。
■救出の方法
・漁業者3人が太く目の粗い袋網を頭からかぶせて,それを引っ張ろうとする
。クジラが激しくあばれたため,網は胴体に絡まるが,網の端のロープはう まく尾柄に結びつけられる。
・ボートでロープを引く。クジラは,最初は引っ張られるのに抵抗していたが ,おとなしくなり,無事岩場から脱出。網が胴体に絡まっていたのと,非常
にゆっくりと引っ張ったため,頭が沈んでしまうことはなく,自力で呼吸している。
・港外で,より大型の定置網用の船にロープをわたす。網をいったんはずし, 左舷側より再び広げ入れる。網をはずしたときにはクジラは尾柄のロープだ
けでつながっており,逆さになったためか,かなり暴れる。しかし,無事網を体に巻き,クジラを船の脇に抱いて背中が水面から出るくらいまで吊り上げた状態で,湾外まで運び出した。ボートから船に渡す時以外には,呼吸孔が水中に没して呼吸できない状態になることはなかった。
・このあと沖合で網を外して,放獣した。
(情報提供:東京大学海洋研究所・天野雅男氏)
「三重県紀伊長島町で定置網に混獲されたミンククジラ」
■混獲のあった漁具および混獲鯨類について
・網:紀伊長島港南南東約5kmの沖合に設置された大型定置網(小魚を採るた
めの雑定置−当時は,イワシなどが主;構造は両落網式ではあるが,一方に は箱網のみで落網がない)。
・混獲日時:1994年10月12日午前6時。
・混獲鯨:ミンククジラ。体長約7メートル,性別不明。
・混獲鯨の処置:生きていたため海へ放獣。
■これまでの混獲状況
・ミンククジラの混獲は,ここ20〜30年くらいの間はなく,今回の混獲は最近
では珍しかった(このあたりでは,クジラを食用とする習慣はない)。
・イルカなどの小型鯨類の定置網への混獲もこのあたりではない。
・小型の定置網にかつてウミガメが入ったことがある。これについては,標識 がついていたのでそれを回収し,再び海に放流した。
■発見時の状況
・10月12日午前6時前,2隻の船(1隻は網起こし用,もう1隻は生簀のつい
た活魚輸送用;作業従事者計10名)で当該定置網に向かい,通常通り網起こ しを始めると,作業の途中で大きなクジラ(ミンククジラ)が箱網の中に入っているのが発見された。
・発見時,クジラはとくに暴れることもなく,比較的おとなしくしており,呼 吸等におかしな様子はなかった。また,外傷なども見当たらなかった。
・どのように処置すればよいのかわからなかったため,とりあえず陸に揚げる ことにした。
■救出の方法
・放獣までの以下の一連の作業は,1時間程度で終わった。
・発見後,箱網内の水面近くに浮上しているクジラに対し,胸びれの後方あた りのところに,太く柔らかいナイロンロープ(通常使用するもの)を巻きつ
けた。胴体を1周させる際には,漁業者が水の中に入った。このとき,クジラは多少,尾びれをバタバタさせることはあったが,概しておとなしく,危険はほとんど感じなかった。また,クジラを奥の落とし網等に追い込むことはしなかった。
・ついで,網起こし用の船のクレーンにそのロープの端を掛け,クジラを空中 に水平に吊り上げた(胸びれ後方あたりにロープを巻きつけたのは,その位
置でバランスがよくとれたため。尾柄にロープを巻きつけたのでは,船に揚げることができなかった)。
・クレーンで吊り上げたクジラをそのまま活魚輸送用の船の甲板に載せた。
・そのままの状態で約20分間かけて,魚市場にクジラを運んだ。
・市場の岸壁が高く,網起こし用の船のクレーンでは,鯨体を岸壁に揚げるこ とはできなかったため,別のクレーン車を呼んで,鯨体を岸壁に上げた(こ
の間数分間)。
・ロープをつけたままクジラを市場にそのまま横たえたが,クジラは,多少尾 びれをバタつかせる程度で大暴れはしなかった。
・衰弱等は見られなかったため,直ちに海に戻すことにした。
・クジラを再びクレーンで吊り上げ,岸壁のすぐ前(港内)の海の上まで吊り 上げた。そして,ロープの輪を切断してクジラを海に放した。フォークリフ
トの使用も考えたが,クジラが暴れた場合を考慮して,その使用は取り止めた。
・放されたクジラは,しばらく潜水したあと数百メートル先の海面に浮上して 呼吸した。
・翌日,対岸の小湾内で呼吸をしているこのクジラが目視されたが,それ以後 はとくに発見の情報はなかった。また,他の定置網に再び入ったとの情報も
なかった。
■混獲鯨について
・体表にケガ等の外傷はまったく見られなかった。また,腹を上にして浮くよ
うな衰弱した様子はまったく見られなかった。
・ロープを巻きつけたが,ロープの鯨体への食い込みはほとんどなかった(皮 膚にかなりの弾力がある)。
■損害等
・救出作業にあたった漁業者にケガ等はまったくなく,また定置網そのものへ
の損害もなかった(網を切ることはなかった)。
(情報提供:長島共同大敷組合・南部氏)
なお,定置網に混獲された大型ヒゲクジラの最近の救出事例としては,上記の他に,1996年2月,沖縄県読谷村で定置網に混獲された2頭ザトウクジラの例がある。この2頭のザトウクジラは,地元漁業者と国営沖縄記念公園水族館の努力により,二段箱の魚取部の網の結び目を解くことによって網の外に泳ぎでて,救出された。
(国営沖縄記念公園水族館・内田詮三氏私信)