日本では先祖代々の伝統産業
国民から支持も強い
―― 捕鯨国の文化 ――
さて、IWCには、その規制対象を12鯨種に限るというガイドラインがあるが、加盟国の中には、この条約が全ての鯨種を対象としうると主張する国があり、中にはイルカ類など、通常、鯨と呼ばれない小型鯨類を含め、全83種のセタシアン(分類学上の鯨類及びイルカ類の総称)を規制しうると主張する国まである。
科学委員会の科学者は、シロナガス、セミ、ザトウ、ホッキョク鯨を除けば、他の大小鯨種の資源の大部分に危険が存在しないことを知っている。とくに、ミンク鯨やゴンドウ鯨は百万頭以上、マッコウ鯨も約百万頭の資源であること、コク鯨も、現在、史上かつて見なかった程の良好な資源状態にあること、イワシ鯨、ニタリ鯨、ナガス鯨の特定地方群(ナガス鯨は、昔に比べ、一般に数が減っているが、そう大幅に減ったというわけではない)も、一定の捕鯨を許容できる水準にあることなども、周知の事実である。又、前述の通り、科学委員会は、危険なほど低い水準にある鯨種については、直ちに捕獲を禁止すべきであるとの立場をとっているが、IWCは、捕鯨禁止原則に例外をつくり、ホッキョク鯨とコク鯨の捕獲を認めている。ただし、ともに最近の捕獲により、資源が減少したという事実は存在しない。
IWCによる推定資源量
| 鯨 種 |
海 域 |
調査年度 |
推定頭数 |
| ミンク鯨 |
南半球 |
1982/83〜1988/89 |
761,000 |
| 北大西洋(カナダ東岸海域を除く) |
1987〜95 |
149,000 |
| 北西太平洋及びオホーツク海 |
1989〜90 |
25,000 |
| ナガス鯨 |
北大西洋 |
1969〜89 |
47,300 |
| コク鯨 |
北太平洋東部 |
1997/98 |
26,300 |
| ホッキョク鯨 |
ベーリング-チュクチ-ビューフォート海 |
1988 |
7,500 |
| ザトウ鯨 |
北西大西洋 |
1979〜86 |
5,500 |
| 南半球南緯60 度以南(夏季) |
1988 |
10,000 |
| ゴンドウ鯨 |
北大西洋中部及び東部 |
1989 |
780,000 |
(IWC資料より)
1970年代後半、ホッキョク鯨の頭数は、500〜2,000頭と推定されていたが、現在、その数は8,000頭を超えた。その差は、実際の頭数の増加より、調査の充実による精度の向上に負うところが大きい。コク鯨の場合には、1930年代に、7,000頭と推定されていたが、現在の資源量は、26,000頭、毎年140頭以上の捕獲を許しながらの増加であり、科学者は、これを資源の増加による結果と判定している。
資源に何等の悪影響を与えない捕獲ができるといっても、だから無条件に当該捕鯨を認めてよいということには必ずしもならない。そこで捕鯨反対論者は、鯨が人間かそれに近い知能を持つと主張し、そのような知能の高い動物を殺すのは間違っていると主張する。しかし、彼等の知能については、これまで何十年にもわたる研究があるが、鯨類の知能がとくに勝れているとする証拠はない。鯨類程度の行動や能力であれば、多くの動物にも観察されている。
もう一つの有力な反対意見は、捕殺方法が残酷であるという主張である。人道的捕殺という用語がよく使われるが、この用語は、概念上自己矛盾である。動物を殺す際にわれわれができることは、できるだけ速やかに、又、苦痛を少なくすることであり、捕鯨の場合には十分な配慮がされていることが判っている。毎年、何百万頭という牛、羊、豚、鶏が屠殺されているが、捕鯨にかける配慮は、これらの動物の屠殺の際における配慮と比べて、とくに遜色はない。
捕鯨は、現代社会上許されるべきではないとする主張もある。最近まで捕鯨国であった工業国が、いずれも今や熱心な反捕鯨国であることが、その主張の根拠である。だが、こうした論旨は、捕鯨国と反捕鯨国の間にある文化の相違を無視するだけではない。捕鯨国は文化の発展段階が低いと勝手に決め込み、尻を蹴り上げても、もっと高い文化段階に押し上げる必要があると主張しているわけで、思い上がりも甚だしい。人類学者も又、こうした議論を噴飯物だと考える。
捕鯨を断念した国々の捕鯨は、いずれも鯨油目的であった。1960 年代まで鯨油は色々な用途に使われ、例えば潜水艦の位置測定システムにとって、マッコウ油は必需品であったため、米軍当局は当時、マッコウを絶滅危険種に指定することに反対していた。又、条約設立の目的の一つが、鯨油市場の安定化であったことも忘れてはいけない。そのため、IWCにおける捕鯨頭数枠は、当時、鯨油の生産量を基準に設定されたのである。しかし、1970 年代に入ると鯨油に廉価な代替品が登場したため、鯨油のみを目的に捕鯨を行なってきた国々は捕鯨に魅力を失って、撤退した。それだけの話である。
 |
| 鯨の解体作業 |
尚古美術館所蔵「小川嶋捕鯨絵巻」より |
他の国では事情が全く違う。とくにノルウェーと日本はそうで、捕鯨は伝統的な産業であり、いわば、米国民にとっての牧場経営のような存在であり、十分に尊敬され、国民の支持も強い。ノルウェーでは、捕鯨と漁業は多く不可分な存在であり、漁期の終わりに到来する捕鯨のシーズンのおかげで、漁業者は一年を無事に乗り切れるのである。日本でも事情は似たようなもので、先祖代々、捕鯨に従事してきた人達は、その家業を守ることに名誉をかける。家業たる捕鯨を捨てることは、家門の恥である。
1982年、捕鯨モラトリアムが採択されたため、ノルウェーの漁民が多く破産に追い込まれた。アイスランドでも、同じような事態が起きた。これらの人達は、鯨が豊富に存在するのに、何故、伝統的な捕鯨を止めなければならないのかと憤激する。
人類学者は伝統的な食品が、当該コミュニティの社会構造や規範の形成に深く関わると考える。「人は、その食物により定まる。」とする諺もある。他人に伝統的な食品の摂取を断念させようと迫ることは、人格の一部を放棄せよと強要するのに等しい。
一方、日本人は、IWCがIWC条約に基づく義務の履行を拒んでいることに対し、怒りをぶつける。彼等はこれまでの膨大な研究の結果、(研究の多くは、日本人以外の学者による成果であり、IWCの科学委員会は勿論、国際的に見て、広く学者全体がその結論を支持している。)沿岸捕鯨の即時再開、少なくとも、RMPが実行に移されるまでの間の暫定再開に問題がないことは明らかであると主張する。
(訳者注・学問の成果の多くが、非日本人学者の 成果だとするのは、いささか、事実と違う。)
こうした明白な学問的成果を無視する米国とその一党を、日本人が、反理性、卑劣、人種的偏見に満ちた連中だと決め付けるのは、自然の成り行きである。日本などの捕鯨従事国にとり、欧米の反捕鯨運動は、正に文化帝国主義に他ならない。
―― 反捕鯨運動 ――
ノルウェーや日本の捕鯨再開要求に対し、反捕鯨国は、世界の世論が捕鯨に反対していると主張する。しかし、国際法秩序の中で、IWC条約を時代錯誤と決め付けるわけにはいかない。最近の国連関係会議で反捕鯨陣営は少なくとも二度、捕鯨を否定する機会を持ちながらそれに失敗した。1982年といえば、IWCが、捕鯨モラトリアム決議を採択した年であるが、同じ年に、世界の119か国が、国連海洋法条約に署名している。この条約は、公海における捕鯨を認めており、各国は個別に自国民に対し、捕鯨を禁止することはできるが、いわれなき理由を持って、他国に禁止を強要することはできない。第二の機会は、1992年の国連環境開発会議であるが、この会議も、前記国連海洋法条約の諸規定を再確認した。反捕鯨国は、この会議で鯨類を持続的利用の適用資源から除外することを提案したが、会議はこれを明示的に拒否したのである。
つまり、1982年国連海洋法条約と1992年国連環境開発会議は、ともに、反捕鯨につき、国際合意が存在しないことを、具体的に示したのである。
さて、事実はそうであるが、1994年のIWC年次会議において、ニュージーランド代表は、反捕鯨が国際世論であると強弁し、なお、捕鯨禁止の維持に力をつくすと言明した。同じような声明は、米、英も、その後、行っている。しかし、国際合意はもちろんのこと、これらの国の国内世論にも、こうした主張の根拠を見出すことは困難である。
反捕鯨陣営の中核をなす国々において、これまで長年にわたり、何度も世論調査が行われているが、これらの国の国民は、多くの種類の鯨が豊富に存在することを知らず、又、その事実を知らされると、多くの人が、当該種に対する捕鯨を支持すると回答している。昨年4月、環境問題を専門にする米国の世論調査機関レスポンシブ・マネジメントが、米、英、仏、豪で行った調査がその一例で、調査回答者の92%がミンク鯨のことなど何も知らなかったと答えている。そこで、これらの回答者に対し、ミンク鯨には絶滅の危険がないこと、ミンク鯨は、各地域で伝統的に捕獲されていること、IWCの管理の下での捕獲は、資源に悪影響がないように設計されていることなどを知らせて、再度、捕鯨の可否について質問したところ、米国では回答者の71%が、ミンク鯨の捕獲を支持しうると答えた。フランス、豪州、英国での賛成者は、米国より低かったが、それでも、過半数を越えた。こうした調査結果は、別に不思議でも意外でもない。大部分の人は、自国でも食用のために大量の動物が屠殺され、又、野生動物でも絶滅のおそれがない場合、狩猟が許されていることを知っているからである。なお、前記調査の中で、動物権を理由に、いかなる場合にも捕鯨は反対だと回答したものは、豪、米では、6%に過ぎなかった。
反捕鯨運動家も、こうした事を意識し、又科学者が、もう10年以上も前から、大部分の鯨種には、絶滅の危険はないとの合意を確立していることをみて、捕鯨反対を言うだけでは、説得力に欠けると考えたのであろう。最近になって、彼等は又、新しい理由を思い付いた。グリーンピースによる新戦術がそれで、彼等は鯨類産品の違法取引を大袈裟に宣伝し、これを捕鯨反対の理由としはじめた。あたかも世界中に大規模な市場が存在するかの如き主張であるが、過去数十年にわたり、そのような大規模な市場が存在したことはなく、そんな市場は将来も出現しそうにない。グリーンピースは、捕鯨禁止が解除されると、世界中でたちまち、でたらめな捕鯨が始まると宣伝するが、そんな国が多くあるはずはない。
反捕鯨団体も、重々そのことを承知していると思うが、これまでこの運動により多額な資金を集めてきただけに、金づるを失うことに耐えられないというのが真相であろう。彼等のこうした主張は、情に訴える力は強くとも欺瞞に過ぎない。
レスポンシブ・マネジメント社が実施した
捕鯨問題に関する世論調査の結果
| (質問) |
ミンククジラは絶滅の危機に瀕しておらず、国際捕鯨委員会(IWC)では、世界中に100万頭生息していると推定しています。では、
・捕獲されたミンククジラは、食料として利用される。
・ミンククジラの捕獲は、特定の国や民族にとって文化の一部となっている。
・ミンククジラの捕獲はIWCの規制の下、資源全体に悪影響を及ぼさないように、毎年捕獲頭数に制限を設けて実施される。
これらの条件の下で、ミンククジラの捕獲を支持しますか、それとも反対しますか? |
(注)米国の世論調査では、1997年10月、無作為に選出した米国籍の成人698名を対象に実施されました。
仏、豪、英国については、1998年3月に、それぞれ18歳以上の国民約500名を対象に実施されました。
←前へ 3/5 次へ→
|