勇魚バックナンバー Nov.2002 No.26
勇魚 No.26
目次

IWC下関会議の成果について
小松正之(水産庁漁場資源課長/IWC日本政府代表代理)

下関とIWC(国際捕鯨委員会)
江島 潔(下関市長)

クジラ教の破綻
パドレイク・P・マクギニス(ジャーナリスト)

グローバリズムと捕鯨問題
細川隆雄(愛媛大学農学部教授)

百聞は一「食」に如かず
浜口 尚(園田学園女子大学短期大学部助教授)

第54回IWC下関会議 -- 活動の記録

調査兼取締船 第二勇新丸 要目表

小松正之
小松正之
水産庁漁場資源課長
IWC日本政府代表代理
IWC下関会議の成果について
― 米国のダブルスタンダードが露呈 ―
   科学的主張が一歩浸透
 商業捕鯨一時停止(モラトリアム)の採択からちょうど20年が経過した今年、5月20日から24日まで、国際捕鯨委員会(IWC)の第54回年次総会が国内では9年ぶりに山口県下関市で開催されました。今年のIWC総会は、国内開催ということもあって会期中は連日テレビや新聞で大きく報じられ、その結果についてはすでに概ねご存知のことと思いますが、ここではそうした報道からは伝わらない会議の隠れた成果について述べることにします。

露呈した米国のダブルスタンダード
 
今回の総会で注目すべきポイントのひとつが、米国とロシアの共同提案であるホッキョククジラを対象とした原住民生存捕鯨の捕獲枠延長を否決したことです。同提案は2003年から2007年まで米国アラスカ州のイヌイットとロシア・チュコト自治管区の先住民にホッキョククジラ280頭の捕獲枠を認めるというもので、これまでは5年ごとに無条件で承認してきました。しかし今回は投票に付され、日本を始めとする14カ国の反対で否決しました。日本は原住民生存捕鯨の必要性についてはこれまで同様支持しましたが、ホッキョククジラの資源状況に配慮し、捕獲枠は一年ごとに要求すべきだと主張しました。
 ホッキョククジラは現在でもIWC科学委員会が保護資源に指定しており、資源水準は7,000頭から9,000頭です。これを改訂管理方式(RMP)と呼ばれる商業捕鯨の捕獲枠算出方式に当てはめた場合、今後30年間は捕獲禁止(捕獲枠ゼロ)となります。
  米国は自国の原住民による捕鯨は資源状態にかかわらず認める一方で、日本近海に25,000頭生息する資源の良好なミンククジラについて日本が求めている暫定的な沿岸捕鯨の捕獲枠については絶対に認めようとしません。ホッキョククジラの捕獲枠延長に反対した国々はこうした米国のダブルスタンダードを厳しく非難しました。今回原住民生存捕鯨の捕獲枠延長問題で議論が紛糾したことで、米国は自国のダブルスタンダードを広く露呈する結果となりました。

加盟国の増加で勢力関係が拮抗
 今総会から新たにベニン、ガボン、モンゴル、パラオ、ポルトガル、サンマリノの6カ国が加盟し、昨年再加盟しながら反捕鯨国からオブザーバー扱いされたアイスランドを含めると現在の加盟国は49カ国に増えました。こうした加盟国の増加に伴い、日本の主張に同調する国も着実に増え、ここにきてIWCにも改善の兆しが見えてきました。日本が毎年行っている沿岸捕鯨の暫定的捕獲枠要求では、投票結果が賛成20、反対21と過半数にまであと一歩と迫りました。可決するには4分の3以上の賛成が必要ですが、私がIWC総会に日本政府代表団として参加するようになった10年前から比べれば格段の進歩です。なにしろ当時は加盟39ヶ国の中で捕鯨を推進すべきだという国は日本を含め5カ国しかありませんでした。

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 こうした事態に際して反捕鯨勢力は、日本がODAの供与と引き替えに発展途上国の票を買っているなどと中傷を流していますが、日本は150カ国以上にODAを供与しており、その中には反捕鯨国のインド、ブラジル、メキシコ、ケニアなども含まれています。日本に同調する国が増えてきたのは、日本が繰り返し行ってきた科学的根拠に基づく主張が受け入れられてきたからであり、それをODAに結びつけるのは全くの的外れです。
 また今総会では開発途上国の分担金を軽減する分担金制度の見直しで、今後3年間暫定的な負担軽減措置を導入することが合意されました。その結果、資源を利用する立場から日本に同調する途上国のIWC加盟が今後ますます促進されるものと期待されます。それというのも日本の調査からクジラが魚を大量に捕食している実態が明らかにされ、たとえ捕鯨を行っていない国であっても海洋国である限りクジラ問題は避けて通れない「漁業問題」との認識が世界中に浸透しつつあるからにほかなりません。
IWC会議場外でマスコミの取材を受ける筆者
IWC会議場外でマスコミの取材を受ける筆者
  日本の調査自粛決議は採択されず
― 米国はペリー修正法による証明の有力な根拠を失う ―
 87年に日本が調査捕鯨を開始してから、IWCで毎年採択されてきた調査捕鯨の再考や自粛を求める決議が今回初めて採択されませんでした。この決議はそもそも条約違反ですが単純過半数で可決されるもので、何ら効力を有するものではありません。しかし反捕鯨勢力にとっては日本を非難するうえで格好の材料となっていました。日本の調査捕鯨は国際捕鯨取締条約の第8条に則ったもので、合法的な活動です。これまで彼らはこの決議をたてに「日本はIWCの決定を無視して調査捕鯨を続けている」と公然と非難してきたのです。今回採択が見送られたのは、原住民生存捕鯨の捕獲枠延長で会議がしばしば紛糾したために時間切れとなったためですが、理由はどうあれこれまで継続的に採択されてきた調査捕鯨の自粛決議が今回採択なしに終わったことは、日本にとって好ましいことです。

 捕鯨の再開は先送りとなり表面上は何の進展もなく幕を閉じたIWC年次総会ですが、会議の中味は徐々にではありますが着実に我方の主張が浸透しつつあります。総会終了後、そろそろIWCに見切りをつけ脱退論も検討すべきとする意見も聞かれましたが、FAOなど他の国際機関の活用などを含め、今後の対応につき新たに検討していきたいと考えます。

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江島 潔
江島 潔
下関市長
下関市とIWC(国際捕鯨委員会)
 第54回国際捕鯨委員会(IWC)年次会議が、2002年4月25日〜5月24日の日程で、下関市で開催されました。
 一昨年オーストラリア・アデレード市で行われた年次会議でニュージーランドとの誘致合戦の末に下関市開催が決まり、昨年のロンドン会議では、次年度開催に向けての歓迎スピーチを行ってまいりましたので、私としても満を持しての体制を整えてまいりました。
 1ヶ月にわたる長期間、最多時には外国から500人を超える皆様をお迎えしての国際会議でしたから、ホスト市として「ウエルカム!下関」をキーワードに市役所職員はもとより広く市民の皆様とともに心からのおもてなしをしたいと思っておりました。
 平成13年8月23日にまず、全国組織であるIWC下関会議推進協議会が立ち上がり、同年10月に市役所内にIWC推進室や私を本部長とする実施本部を立ち上げるとともに、11月には市内民間団体を中心に実行委員会も結成されるなど、開催に向けての本格的な準備が始まりました。
 特に、外国からの参加者が多いことから、会場となる海峡メッセ下関をはじめ、ホテルや駅での案内などを中心に活躍いただく語学ボランティアを募集したところ、150名の募集に対し、予想を上回る300名を超える方々からの応募をいただき、国際感覚にあふれる市民が大勢おられることを心強く感じました。
   また、会場周辺を中心に違法看板・ポスター類の撤去ボランティア、ホテル・旅館・飲食業・タクシー会社等における様々な接客研修、IWC会議PRラッピングバスの運行やバスの車中での英語アナウンス、会場前の海峡ゆめ広場に設置されたツタや花で飾られたクジラのトピアリーなど、まさに官民一体となった「下関バージョン」のおもてなしに取組んでいただきました。
 このように多くの市民の皆様のご協力のおかげで、総会最終日には参加各国の方々からホスト市・下関への賛辞をいただきました。特筆すべきは、来年の開催地であるドイツ代表者から「今回の下関ようなもてなしは到底達成できませんが、目標として頑張ります」という最大級の褒め言葉を聞いた時には、私を含め会議に携わってきた職員及び関係者、ボランティアの皆さんの今までの疲れが全て吹き飛んだことを鮮明に記憶しております。市民並びに関係各位のご支援の賜と深く感謝いたしております。誌上をお借りしてお礼申しあげます。
 さて、本市は、太古からクジラと深く関わりがあり、国史跡指定の大規模な弥生遺跡「綾羅木郷遺跡」からはクジラの骨も出土しておりますし、明治時代末になり、近代捕鯨の祖として、忘れてはならない岡十郎と山田桃作の両名の顕彰碑も本市の日和山公園に建っており、近代捕鯨の発祥と大きく関わっていたことを示しております。さらに、昭和10年代になって、南氷洋捕鯨の時代になると、中部幾次郎の率いる大洋漁業(現マルハ)が隆盛をきわめますが、発祥の地はもちろん、ここ下関です。

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 その後、大洋漁業は本市を根拠地に大コンチェルンを形成し、造船・製氷・食品加工・運輸・病院など幅広い企業集団となり、大洋漁業直営のクジラ料理専門レストラン「日新」では、洋食のフルコースができ、最盛期には年間13万人の利用客があり、当時のクジラ料理が庶民のなじみであったことを物語っています。現在のプロ野球球団「横浜ベイスターズ」は、その頃「大洋ホエールズ」として本市で発足したものです。
 こうして、クジラで繁栄したまちも1982年に商業捕鯨モラトリアムが決定されるとともに衰退せざるを得なくなりましたが、今下関のまちは、再びクジラとともに活性化への歩みをはじめています。それは、これまで述べてきたように、クジラとの関わりがどこの都市にも負けないほど濃密だったからです。そのことは、今春建立された「くじらさんありがとう」というクジラ感謝碑に見ることができますし、1998年から南氷洋への「調査捕鯨船」の出港基地として、毎年出港式を開催、また、昨年4月にオープンした、しものせき水族館「海響館」には、世界でも数体しかないシロナガスクジラの骨格標本を展示するなど、その表れです。
 残念ながら、今回のIWC総会でも、全般的には昨年までと同様、捕鯨再開に向けての大きな進展は見られませんでしたが、会議開催目前に長門市で開催された第1回日本伝統捕鯨地域サミットや会議開催期間中の持続的利用世界議員連盟の臨時会合をはじめ、地域社会とクジラに関する全国自治体サミットや第6回海の幸フェスティバルなどの様々なイベントも実施され、クジラの食文化と捕鯨の歴史を広く内外に下関市から情報発信することができました。
   さらに、今秋、現役を引退する捕鯨船「第25利丸」を共同船舶鰍ゥら譲り受け、クジラの博物館のようなものへと、構想を練っているところです。現代にとどまらず、次代の人々にも、クジラとの関わりを伝え、「クジラのまち下関」を国内外へ発信し、これからも近代捕鯨発祥の地として商業捕鯨再開に向けて積極的な取り組みを展開したいと思っています。
 「下関市」市名誕生100周年、そして県内初の特例市へと移行した記念すべき年にIWC年次会議が開催され、高い評価を得て無事終了できたことは、下関市にとっての大きな財産であり、今後のまちづくりを進める上での自信と限りない力を与えてくれたものと確信しております。
第54回IWC会議の開会で挨拶する江島市長
第54回IWC会議の開会で挨拶する江島市長

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パドレイク・P・マックギニス
パドレイク・P・マックギニス
ジャーナリスト
邦訳:米澤邦男
(社)自然資源保全協会理事長
クジラ教の破綻
(2002年5月28日付シドニーモーニングヘラルド紙掲載 )
 IWCといえば、昔から非生産的なけんか口論で有名であった。今年の会議もその意味では、何等変わる点はなかったが、日本が初めて鯨愛護論者を向こうに廻して有効なパンチを繰り出した点が目をひいた。また、両者のパンチの応酬の中で、南太平洋サンクチュアリーに固執した豪政府の醜態というか、偽善性も目立った。
 IWCの設立は、乱獲による主要鯨種の絶滅を危惧してのことであったが、今になれば、乱獲による絶滅のおそれなど昔の話である。一部の鯨種については、なお用心のため、捕獲の禁止を維持することが望ましいであろうが、一般論として、今鯨肉を食用として利用したいと望む人々に鯨肉を供給することに反対すべき理由はない。確かに、現在鯨肉を食べなければならないとする必然性はないかもしれないが、同じことは豚肉にもあてはまる。そんな理由で鯨肉の消費の禁止が必要だなどと主張しても、とてもまともな議論にはなり得ない。米国やロシアの原住民にも、鯨肉を食べなければならないとする必然性はない。現在、彼等は特別な神聖犯すべからざる権利を持つとして捕鯨モラトリアム(一時禁止)措置の適用除外とされている。日本は、もし捕鯨を禁止するなら、その禁止はすべての人に適用するのが筋だと主張する。論理上、極めて首尾一貫した議論である。米国、ロシアの原住民にも鯨肉以外に蛋白供給源はあるはずであり、彼等の生存が鯨肉に依存してはじめて成り立つというようなことがあるはずもない
  もし米国やロシアの原住民の主張の根拠が伝統文化にあるとするならば、日本の捕鯨と鯨肉の食用利用も伝統文化であり、その主張の正当性を否定することはできない。南氷洋のミンク鯨の数が多いことは、既によく分かっており、少しでも捕鯨を許せば、この資源が絶滅の危機に陥るなどとする主張はとても正気でできる議論ではないが、南氷洋ミンク鯨に限らず、種の生存に脅威がないということであれば、これを完全に保護し、一頭たりとも捕獲してはならないとする理由は存在しえない。また、日本は既に科学的調査という名目で若干の捕鯨を行っているが、こうした調査のための捕獲により、ミンク鯨資源の安全が脅かされつつあるなどと騒ぎ立てることなど荒唐無稽の極みともいうべきものである。
 では、捕鯨の禁止にここまで拘泥するのは、どこに原因があるのか。種の生存を確保する方法が確立されている現在、あと考えられる理由は感情論と迷信ということになる。鯨は勿論存在感のある動物ではあるが、豚にも存在感はあり、豚が鯨より知能が低いというわけではない。それでも鯨が豚より道徳的に勝れていると考えているというなら、その理由は何なのだろう。ただ体が大きいというだけではないのか。どうなんだ。
 どう考えても、菜食主義者ならとも角、一般に鯨の捕殺を禁止すべき理由はない。しかも、菜食主義は個人的な選択肢ではあっても、政治的な選択肢とはなり得ない。

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 問題に人道的配慮が必要であるとする側面もあるが、それにしても全体の中で大した問題ではない。これ以上、捕鯨技術を改善し、資源の安全性を向上させても、反捕鯨論者がそれで捕鯨を認めるという話ではないのである。しかし、理解に苦しむのは、なぜ豪政府がこんなナンセンスな問題に外交努力を傾けるかという点だ。豪政府が気の触れたような支持者であっても御機嫌取りをしたくなる気持ちは判らなくもないが、それでも実際にここまで馬鹿げたことをするのはよくよくのことで、反捕鯨論者が本当の支持者ではなく、その数もそう多くなくても、これらの連中の支持がなくては困るという事情が連立政権側にあるからだろう。他に考えようがない。豪政府が反捕鯨の旗を振り、南太平洋サンクチュアリーを続けてゆくことに国際政治上の利益はない。反捕鯨政策の推進者の中心は官僚であるに違いないが、彼等はまた生半可な知識しか持たない中産階級の時流的な意見に引きずられすぎている。    IWCは、既に機能不全を起こしているが、日本もとうとうこれを崩壊させるという道を選んだということかもしれない。 日本は、これまで多くの国を味方につけてきた。そこに直接間接利益誘導があったかどうかなどの問題はどうでも良い。世界政治の中で富める国が貧困に喘ぐ国々を買収することは、日常茶飯事であり、とくに異とするには足らない(こうした金は大部分特権階級に流れ、貧困層に流れることはまずないが)。
 グリーンピースなど自らの内部をあまり明らかにしないNGOが、その営業上嘘をついたり、事実をねじ曲げることは判らぬでもない。反捕鯨は今でも彼等にとり、最もうまみのある商品だからだ。確かに豪国内には捕鯨に反対する空気がかなりある。しかし、こうした感情は国内だけで簡単に処理できる。豪州にも長い、かつ誇るべき捕鯨の歴史があるが、今、これの復活をかけて立ち上がる人はまずいまい。しかし、それにしてもなぜ豪・EUなどの裕福な国々の道学者どもが、自分の食習慣や宗教的な好みを他国に押しつけようとするのか、訳の判らない話である。
第54回IWC下関会議の開会
第54回IWC下関会議の開会

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細川隆雄
細川隆雄
愛媛大学農学部教授
グローバリズムと捕鯨問題
 社会主義の盟主ソ連が崩壊して10年余りが経過したが、社会主義と鋭く対立してきた資本主義の盟主アメリカはソ連崩壊後ますます自信を深め、自らの主義主張、やり方を世界に広めつつある。ソ連の崩壊は一規範としての社会主義イデオロギーが崩壊したことを示すが、これはソ連の政治が政敵アメリカによって、グローバル化の渦の中に巻き込まれたことを意味する。アメリカは強力な情報発信力によって情報をグローバル化し、つまり規制なき自由主義経済が善であるというアメリカ流の考え方を世界中にばらまき、社会主義諸国の政治のグローバル化に成功したのである。
 「グローバリズム」をどのように理解するかは様々であろうが、問題は「グローバリズム」には「価値観の押し付け」を含んでいるという点である。国・地域が本来的に持っている伝統的なローカルルール・慣習を捨て去って、グローバルなルールに従えということが含意される。
 思うに、言わば環境至上主義的グローバリズムの名のもとに地域に根ざした捕鯨の自立性・主体性は見事なまでに奪い去られた。一方主義的なグローバリズムの名において地域・風土に根ざしたものが軽視される傾向がますます強くなっている。その中で地域・風土に根ざした捕鯨を含む日本の農林水産業はますます後退を余儀なくされている。
 アメリカ主導の下で形成された国際的枠組み、商業捕鯨モラトリアムの今日的状況において、生活権を奪われた伝統的捕鯨地域は自らの地域的アイデンティティーを求めて苦悩している。
  去年の12月に筆者はその内の宮城県の鮎川と北海道の網走を訪問し、後継者問題も含めて捕鯨業の困難な状況について捕鯨関係者から話を聞いた。
 宮城県牡鹿町のA捕鯨会社のB氏は後継者問題について次のように述べた。「ここ鮎川では鯨で育った我々の世代で捕鯨への灯を消したくないので、捕鯨の再開について水産庁に申し入れを行っている。現在のわが社の従業員について言えば幸い20歳代が2名おり、50代が2名、60代が1名で年齢上のバランスは一応取れている、しかし、捕鯨業に展望がなければ若手は入ってこない。特に鯨の解体のための後継者を育てる必要がある。現在、鯨の解体従事者の年長は75歳にもなっている。鯨の解体には長年の経験がいる」。また、鮎川にある日本鯨類研究所のCさんによれば、商業捕鯨禁止の後、鯨の仕事に携わっていた人に対して政府からの補償はなかった。仕事がなくなった人たちは製造業や建設業に仕事を求めた。仮に商業捕鯨が再開されて、鯨が捕れるようになっても若い人は技術的に捕鯨業に就くのは難しいと言う。
 Cさんは捕鯨文化を守るための必要性を次のように指摘した。「マルハがこの地から撤退した後マルハの土地は観光施設としてのホエールランドになったが、ホエールランドの経営は赤字の状況にある。入場料を1000円から700円に下げた結果、入場者は増えたが依然として赤字から脱却できない。ただ、ホエールランドを閉鎖するわけには行かない。なぜならば、捕鯨文化を守るためにはホエールランドは必要だと思うからである。

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 捕鯨文化を守るために年一回伝統的な鯨祭りを開催しているが、鯨に興味のない人たちが増えているのが現実である。若い人たちに鯨の味を知ってもらうために月一回学校給食に鯨を提供している。子供たちに鯨をもっと食べてほしい。昔は、鯨はお金を出して買って食べるものではなく貰って食べるものであった。つまり、お裾分けが一般的に行われており、鯨肉のお裾分けは、地域共同体の象徴でもあった」
 北海道網走市のD捕鯨会社のEさんは鯨料理が伝統的な家庭料理であった点について次のように言う。「網走の人たちはもともと生で食べていたので冷凍は食べていない。今は調査用の冷凍のみ、生が食べたいので次の春まで食べなかった。ハリハリ鍋は食べない。生でステーキ、しょうゆのショウガ焼き、味噌焼きなど冷蔵庫がないからしょうゆか味噌漬けで4月から6月まで食べて、それがなくなったら次の春まで待った。もともと鯨料理の店はなかった。すべて家庭で食べていたから流行らなかった。鯨料理の店が最近一軒できて観光客が来ているようだが、自宅で食べていた網走市民にはとてもなじみがあった。肉は鯨しかなかったので日常的に食べていた。値段も安かった」
 北海道網走のF水産加工業者のGさんはIWCへの不満として次のように述べた。「現在IWCは日本に対して生存捕鯨を認めていないが、鮎川も含めて日本の沿岸捕鯨を生存捕鯨として認めてほしい。つまり、日本の沿岸捕鯨をイヌイットの生存捕鯨と同様に扱ってほしい。地域の捕鯨業を救済するためにミンククジラの捕鯨枠50頭を認めてほしい」
   さらにGさんは次のように言う。「解体技術の後継者問題はそれほど心配していないが、むしろ捕鯨手と乗組員を集めるのが難しい。その問題への対応は早い方がよい。私の今後の予定について言えば、網走のカーニバルでクジラの宣伝をやるつもりである。そして下関のIWC総会に参加するつもりである。IWC総会で商業捕鯨再開についての日本の提案が一歩でも前進することを期待している」
 今回は伝統的捕鯨地域である鮎川と網走を訪問し、関係者から話を聞いたが、それぞれの地域において、捕鯨の灯を消さないために行政を含めて関係者が努力している点が確認された。しかし、捕鯨業および捕鯨文化を守るために、より大事なことは各地域の取り組みをネットワーク化し、日本全体としての商業捕鯨再開運動として世界に情報発信していくことであろう。
 グローバリズム的潮流が戦略国家アメリカによる一方主義的な「ルールの押し付け」「価値観の押し付け」的性格を持つものだとすれば「鯨を守れずして地球環境は守れない」という大義名分の下に、捕鯨を環境のシンボルとした環境至上主義的グローバリズムによって、商業捕鯨がモラトリアムされ、伝統的捕鯨地域の生活権が侵害されている今日的状況は、グローバリズムの否定的側面を如実に示している。日本はアメリカ主導の「地域」の伝統・慣習・ルールを否定したグローバリズムという普遍主義に対して、一矢を報いる必要がある。捕鯨地域の意向を軽視した環境至上主義的グローバリズムによって支配されている捕鯨をめぐる国際的枠組みIWCの異常な状況を是正する必要がある。

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浜口 尚
浜口 尚
園田学園女子大学
短期大学部助教授
百聞は一「食」に如かず
−鯨食文化体験学習セミナー「鯨を食べて考えよう in 園田学園女子大学 2001」を開催して−
 筆者は勤務する園田学園女子大学短期大学部国際食文化専攻において1995年度より世界各地の捕鯨文化を教えている。授業において実施したアンケートによれば鯨料理の食経験のある新入学生は1996年79%、1997年67%、1998年68%、1999年58%、2000年43%、2001年41%と漸減している。鯨料理が学校給食のメニューから消えて久しく、また一般家庭の食卓からも遠のいている今日的状況を考え合わせると、今後も若い世代の鯨料理の食経験は減少の一途をたどっていくと考えられる。
 本学は1995年度にクジラ食文化を守る会から鯨肉の提供を受け、鯨料理の調理実習・試食会を行った実績を持っている(『勇魚』第14号参照)。近年、学生から一度鯨を食べてみたいとの声をよく聞くようになった。授業経験に基づけば、若い女性は鯨を鑑賞対象であると同時にまだ食料としても考えている。食べてみたいと感じている時に、おいしい鯨料理を食べさせてあげてこそ鯨食文化を次世代に継承できるのである。
 そのような経緯から、今回日本捕鯨協会より「2001年度第二期北西太平洋鯨類捕獲調査」で捕獲された鯨肉ほかの鯨産物の提供を受け、2001年12月9日に標記鯨食文化体験学習セミナーを開催したのであった。本セミナーは国際食文化専攻の二年次生が授業の一環として午前中に鯨産物を用いた調理実習を行い、完成した鯨料理を学生や一般の方々と昼食時に試食、午後からは山村和夫氏((財)日本鯨類研究所理事)の講演「クジラと捕鯨」を聴講するという形で行われた。
  当日は中国・韓国からの留学生を含めて試食会の参加者が130名、講演会は80名であった。結果としては鯨料理を食べただけで帰った学生も多くいたことになるが、これもご愛嬌といったところであろう。
 講演会終了後に参加者に簡単なアンケート調査を実施した。アンケートはまず鯨料理の食経験の有無を尋ね、次に試食会で提供された鯨料理6品(刺し身、竜田揚げ、ハリハリ鍋、しぐれ煮、ベーコン、くじら汁)について、「とてもおいしい」「おいしい」「どちらともいえない」「あまりおいしくない」「おいしくない」の5段階で評価してもらうというものであった。アンケートの回答者数は69名であった。
 鯨料理の食経験に関しては、過去に鯨料理を食べたことのある者が48%、食べたことのない者が52%であった。父兄や学内関係者などの年配者が少数ながら参加していたため、年度当初に新入学生に尋ねた時の食経験者率41%を若干上回っていた。過半数強が鯨料理を初めて食したことになるが、その感想は以下のとおりである(別表参照)。
 「とてもおいしい」「おいしい」を好ましい評価(高評価)、「あまりおいしくない」「おいしくない」を好ましくない評価(低評価)と考えたならば、竜田揚げの高評価率85%を最高に、しぐれ煮とくじら汁が79%、刺し身とハリハリ鍋が48%と続き、ベーコンが39%となっている。ベーコンを除けば鯨料理への若い女性の支持率は高いといえるであろう。揚げものを好み、あまりにも脂濃いもの(ベーコンなど)は嫌うという若い女性の好みが表れた結果であった。

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 意外だったのがくじら汁の高評価である。鯨の脂皮が入っているのだから、本来脂濃いはずであるが、脂抜き・アク取りがうまくいったのかもしれない。一方、ハリハリ鍋はだしが少し薄味すぎた。これが評価を下げた原因であろう。一度に100人分以上の料理を作るのだから、なかなかレシピどおりにはいかない。まぁ、学生の実習だから、うまくいかないのも勉強である。今後の反省材料としておきたい。
 学生の全体的な感想をいくつか取り上げておこう。
ハリハリ鍋を準備する学生
ハリハリ鍋を準備する学生
   「私は鯨肉=硬い肉と思っていましたが、今日鯨料理を食べて、その硬い肉というイメージは消えました。特に刺し身を食べたとき、硬くはなく臭みもあまりなかったので、食べやすかったです。味はマグロの赤身に似ているように感じました」。
 「鯨料理は魚料理のような肉料理のような不思議な感じがしました。ハリハリ鍋やくじら汁は少し生臭く感じました。竜田揚げはおいしかったです」。
 「鯨料理を食べてみて、竜田揚げ、しぐれ煮は日本人にあった味だと思った。捕鯨は大切な文化だと思う。私は捕鯨には反対しないです」。
 毎年半年間、世界各地の捕鯨文化や鯨食文化の意義について講義しているが、食経験のない物の食文化を理解させるのは難しい。反捕鯨環境保護団体のメディアを利用したPR活動の結果、時には「鯨って食べ物なの?」という反応もあるが、一度食べてみれば「鯨も食料である」ことを納得する。百聞は一「食」に如かずである。
 本学には幸いにして調理実習施設があり、調理実習関連科目も開講されている。今後もこの学習環境を活用しながら、学生とともに捕鯨文化、鯨食文化を学んでいきたいと考えている。もちろん、たまには鯨料理を食しながら…。
鯨料理試食感想アンケート結果 (N=69)
  とてもおいしい おいしい どちらともいえない あまりおいしくない おいしくない
竜田揚げ 26% 59% 15% - -
85% -
しぐれ煮 38% 41% 18% 3% -
79% 3%
くじら汁 27% 52% 17% 2% 2%
79% 4%
刺し身 24% 24% 40% 6% 6%
48% 12%
ハリハリ鍋 8% 40% 34% 10% 8%
48% 18%
ベーコン 11% 28% 25% 14% 22%
39% 36%

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第54回IWC下関会議 - 活動の記録 -
シンポジウム「捕鯨の伝統と文化を考える」
シンポジウム「捕鯨の伝統と文化を考える」
(東京・銀座)  平成14年2月23日
クジラの日キャンペーン
クジラの日キャンペーン
(東京・渋谷)  平成14年4月9日
全国キャラバン
全国キャラバン
平成14年3月16日〜4月23日
第6回海の幸フェスティバル
第6回海の幸フェスティバル
(山口県下関市)  平成14年4月13日
第1回日本伝統捕鯨地域サミット
第1回日本伝統捕鯨地域サミット
(山口県長門市)  平成14年3月21日
IWC下関会議で捕鯨再開を目指す全国総決起集会
IWC下関会議で捕鯨再開を目指す全国総決起集会
(東京・平河町)  平成14年5月9日
第15回捕鯨の伝統と食文化を守る会
第15回捕鯨の伝統と食文化を守る会
(東京・永田町)  平成14年5月9日
地域社会と鯨に関する全国自治体サミット
地域社会と鯨に関する全国自治体サミット
(山口県下関市)  平成14年5月20日
持続的利用世界議員連盟(SUPU)臨時総会
持続的利用世界議員連盟(SUPU)臨時総会
(山口県下関市)  平成14年5月19日

第8回ウーマンズフォーラム魚全国シンポジウム
第8回ウーマンズフォーラム魚全国シンポジウム
(山口県下関市)  平成14年5月21日
下関市内街頭パレード
下関市内街頭パレード
平成14年5月20日
第54回国際捕鯨委員会において、捕鯨の早期再開を求める集い
第54回国際捕鯨委員会において、捕鯨の早期再開を求める集い
(山口県下関市)  平成14年5月21日

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第二勇新丸
調査兼取締船 第二勇新丸 要目表

船舶番号 ・・・・・ 137139 主機連続最大出力 ・・・・・ 3,900kw(5,280馬力)
信号符字 ・・・・・ JPPV   試運転最大速力 ・・・・・ 18.848ノット
船籍港 ・・・・・ 東 京   満載航海速力 ・・・・・ 17.0ノット
長さ(全長) ・・・・・ 69.61m   航続距離 ・・・・・ 11,500海里
幅(型) ・・・・・ 10.80m   起工 ・・・・・ 平成14年3月6日
深さ ・・・・・ 5.30m   進水 ・・・・・ 平成14年6月11日
総トン数 ・・・・・ 747トン   竣工 ・・・・・ 平成14年9月30日
最大搭載人員 ・・・・・ 25名   建造所 ・・・・・ 内海造船株式会社
瀬戸田工場

裏表紙写真
マーク
Prepared by Japan Fisheries Association,Japan Whaling Association.

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JWA
JAPAN WHALING ASSOCIATION